
正規職員1名の採用に、平均91.7万円。介護・福祉の現場が人材紹介会社に支払っている手数料の実額です(福祉医療機構の調査より)。払いたくて払っているわけではない。それでも、人がいなければ現場が回らない。この記事は、その構造から抜け出すための選択肢の話です。
前半は公的調査のデータで「福祉の採用コストの現在地」を確認し、後半は私たちが福祉事業所の採用を自ら運用して得た実例をもとに、手数料に頼らない採用のつくり方を解説します。
Contents
データで見る、福祉の採用コストの現在地
まず、感覚ではなく数字から。福祉医療機構(WAM)の調査によると、特別養護老人ホームが人材紹介会社に支払った手数料は、正規職員1名の採用あたり平均91.7万円です(2023年度調査)。
しかも、この負担は増え続けています。1施設あたりの年間支払総額は、2023年度調査の平均290.8万円から、直近の2025年度調査では平均348万円へ。約57万円の増加です。障害福祉分野でも、事業所の52.6%が職員不足と回答し、人材紹介の手数料は年間平均135.4万円にのぼります。
全国調査の業種別データでも傾向は同じです。医療・福祉・介護の年間採用費は、実績が予算を平均247万円上回り、超過幅は全業種でも最大級。「想定より採用にお金がかかる」が、この業界では常態化しています。
「とても高い」のに、定着しないというジレンマ
高くても、それで人が定着するなら投資と呼べます。しかし現場の評価は、数字がそのまま語っています。
84.7%
手数料の水準は
「とても高い」
43.4%
紹介経由の職員は
「定着率が低い」
64.8%
「採用した職員の定着」
に不満(直近調査)
70.2%
「紹介される人材の質」
に不満(直近調査)
※上記4点はいずれも特別養護老人ホームを対象とした調査の値です。
1名91.7万円を払っても、定着しなければ翌年また91.7万円。都度払いの構造は、定着しないほど負担が増える設計になっています。そして手数料をいくら払っても、法人の発信力や認知、ファンは1ミリも増えません。費用が資産に変わらないこと。それが、紹介依存が終わらない根本原因です。
なぜ福祉で「紹介依存」が起きるのか
福祉の現場に、採用を責める資格のある人はいません。構造を見れば、依存には理由があります。慢性的な人員不足のなかで、欠員は突然発生する。配置基準があるから、待てない。採用専任を置く余裕はなく、現場の責任者や事務方が兼務で採用を回している。この状況で「今すぐ確実に1名」を叶えてくれるのは、たしかに人材紹介です。
つまり、紹介の利用そのものは合理的な判断です。問題は、「すべての採用」が紹介頼みになり、緊急対応が恒常運転になってしまうこと。緊急時の選択肢は残しつつ、平時の採用を自前で回せる仕組みを持つ。この二段構えが、抜け出すための現実的な道筋です。
もう一つの軸は職種です。サービス管理責任者や相談支援専門員のように実務経験要件のある希少職は、労働市場そのものが小さく、紹介や、ダイレクトリクルーティング(企業側から候補者に直接スカウトの連絡を送る採用手法)が引き続き合理的です。一方、支援員は資格や実務経験が必須ではなく、他業界からの転職層に広く出会える職種です(WAMの調査でも、この構造の違いが指摘されています)。そしてこの支援員層こそ、条件ではなく想いで出会う共感採用が、いちばん機能する主戦場です。
福祉こそ「共感採用」が機能する理由
共感採用とは、給与や条件の手前にある「何のために存在する法人か」を発信し、価値観に共感した人と出会う採用のこと。私たちはWantedlyなど、会社の考え方や日常を発信できる採用サービスを使ってこれを実践していますが、実はこの方法がいちばん機能しやすいのが、福祉業界だと考えています。理由は3つあります。
1. 語るべき「想い」が、すでにある。
福祉の仕事は、理念なしには続けられない仕事です。「なぜこの法人を立ち上げたのか」「利用者さんとどう向き合っているのか」。多くの法人が、語られていないだけで、語るべきものをすでに持っています。
2. 条件競争から降りられる。
給与テーブルは制度上、大きくは変えられません。条件の土俵で戦う限り苦しいのが福祉です。しかし「この法人で働く意味」の土俵なら、規模や給与に関係なく戦えます。
3. 価値観マッチは、定着に直結する。
福祉の離職理由の多くは、仕事内容そのものより「思っていたのと違った」というギャップです。入職前に法人の考え方と現場のリアルが伝わっていれば、そのギャップは入口で潰せます。
実例|福祉事業所でのWantedly実運用
siroは、この方法を支援先に勧める前に、自分たちで実践してきました。就労移行支援事業所を運営するaoの採用を、Wantedlyで自ら運用しています。当事者としての結果は次の通りです。
総費用97万円(媒体費含む・運用は内製)で正規職員3名を採用。1名あたり約32.3万円です。参考までに、同じ障害福祉分野の調査では紹介手数料は年間平均135.4万円・平均採用2.1人(1人あたり換算で約64万円)、特養(介護職中心)では1名平均91.7万円という水準です。ただし公平に言えば、単純な単価比較はできません。採用した3名はいずれも支援員(未経験・他業界からの転職)で、調査の手数料水準にはサービス管理責任者など希少職の採用も含まれるとみられるからです。それでも、本質は変わりません。紹介手数料に頼らず、幅広い転職層から価値観の合う3名と出会い、全員が2年以上勤続した。1名は現在も在籍しており、2名は2年以上中核人材として働いたのち、円満に卒業しています。
補足すると、この成果はスカウト機能を持たない最小プランでの運用が基本です。派手な機能ではなく、法人の考え方を伝える記事だけで、候補者の方から見つけてもらう状態をつくりました。特別な予算も、採用専任もいらない方法だということです。
高い手数料の代わりに必要なのは、
自分たちの言葉だった。
福祉法人が実践するときのポイント3つ
①|制度の言葉ではなく、現場の言葉で語る
「利用者様一人ひとりを大切にした温かい支援を提供します」といった定型文は、どの法人のサイトにも書いてあります。伝わるのは、現場の具体です。ある日の朝礼で何が話されたか。利用者さんのどんな変化が嬉しかったか。一次情報の具体だけが、他法人との違いになります。
②|「大変さ」を隠さない
福祉の仕事の大変さは、隠しても入職後に必ずバレます。むしろ「大変さと、それでも続ける理由」をセットで正直に書いた記事のほうが、覚悟のある応募につながります。きれいごとだけの発信は、ギャップ離職の原因を自分でつくっているのと同じです。
③|代表・責任者が顔を出す
候補者が知りたいのは「誰と働くのか」です。トップの想いが本人の言葉と顔で語られている法人は、それだけで信頼の土台が違います。文章が苦手でも構いません。話した内容を書き起こす形で十分です。
向いている法人、向いていない法人
正直にお伝えします。この方法は、すべての法人に向くわけではありません。
向いているのは、理念や利用者への想いを持って運営している法人、継続的に採用が発生する法人、そして「今月中に1名」ではなく3ヶ月から1年の時間軸で採用を仕組み化したい法人です。
向いていないのは、今すぐの欠員補充だけが目的の場合(それは紹介・派遣が合理的です)、そして発信する中身、つまり現場への想いが本当に何もない場合です。もっとも、後者に該当する福祉法人には、私たちはほとんど出会ったことがありません。想いはあるのに、言葉になっていないだけ。それが実感です。
まとめ|手数料を「翌年も効く資産」に変える
年間348万円。いま手数料に消えているこの支出の一部を、法人の言葉を伝える仕組みに振り向ければ、費用は初めて「翌年も効く資産」に変わります。記事は残り、想いは蓄積し、共感した人が向こうから見つけてくれるようになる。緊急時の紹介は選択肢として残しながら、平時の採用を自前で回す。その第一歩は、大きな予算ではなく、自分たちの言葉を整えることから始まります。
ACTION POINTS
今日からできる、3つのこと
- 昨年度、人材紹介に支払った総額を計算してみる(平均は年348万円です)
- 「なぜこの法人を続けているのか」を、代表・責任者自身の言葉で200字書いてみる
- 直近で定着している職員に「なぜ入職を決めたか」を聞き、その理由が採用の発信に含まれているか確かめる
「うちの法人の場合は?」を、一緒に整理しませんか?
無料の採用魅力診断で、貴法人の採用の強みと課題を構造化します。福祉事業所の採用を自ら運用してきた当事者として、現場の実情を踏まえてお話しします。紹介の利用を続けるべきか迷っている段階のご相談で構いません。
出典・参考
- 福祉医療機構「2023年度 特別養護老人ホームの人材確保に関する調査結果」(1名あたり手数料91.7万円・年間総額290.8万円・手数料水準・定着率)
- 福祉医療機構「2025年度 特別養護老人ホームの人材確保に関する調査結果」(年間総額348万円・満足度)
- 福祉医療機構「2023年度 障害福祉サービス等事業所の人材確保に関する調査」(職員不足52.6%・手数料年間平均135.4万円)
- マイナビ「中途採用状況調査2025年版(2024年実績)」(医療・福祉・介護の予算超過額)
※本記事の実績は次の定義によります。福祉事業所の採用3名(正規職員)は2023〜2026年のWantedly運用によるもので、採用単価は媒体利用費等の総費用ベース(運用は内製のため人件費を含みません)。全員が2年以上勤続し、2026年7月時点で1名が在籍中、2名は2年以上勤続ののち退職しています。障害福祉分野の1人あたり手数料「約64万円」は、調査公表値(年間平均135.4万円・平均採用2.1人)から当方が換算した参考値で、職種構成の内訳は公表されていません。当方実績の3名はいずれも支援員です。統計はいずれも記載時点の公表値であり、成果を保証するものではありません。