
2026年7月、障がい者雇用の義務がかかる会社の範囲が広がります。これまで「うちはまだ関係ない」と考えていた中小企業も、当事者になります。ただ、本当に問われているのは「何人雇うか」ではありません。雇った人が、続くかどうかです。
何が変わるのか
整理します。民間企業の法定雇用率は、2024年4月に2.3%から2.5%へ引き上げられました。そして2026年7月、最終目標である2.7%に引き上げられます。
率が上がると、対象になる会社の規模も下がります。現在は常時雇用の従業員40人以上が義務の対象ですが、7月以降は37.5人以上に広がります。つまり従業員が38人や39人の会社は、来月から新たに「最低1名の雇用義務」を負うことになります。これまで一度も向き合ってこなかった会社が、突然スタートラインに立たされます。
率が定期的に引き上げられてきた背景には、人的資本経営への関心や、多様な人材を活かす組織づくりへの社会的な要請があります。流れ自体は、今後も変わらないと見ておくべきです。
実務上の注意点を一つ。事業主には毎年6月1日時点の雇用状況をハローワークに報告する義務がありますが、2026年については7月に率が上がるものの、6月1日時点の報告は2.5%を基準に行われます。引き上げの影響が指導や数字にはっきり表れるのは、その次のサイクルからです。だからといって準備を後回しにできるわけではありません。受け入れの体制づくりには、想像以上に時間がかかります。
半数の企業が、まだ達成できていない
ここで、いまの実態を示すデータを見ておきます。
厚生労働省が公表した令和7年の集計結果によると、法定雇用率を達成している企業の割合は46.0%でした。つまり過半数の企業が、まだ基準に届いていません。さらに、未達成企業65,033社のうち、不足数がわずか0.5〜1人にとどまる企業が64.0%を占めています。
そして、障がい者を1人も雇用していない企業は37,262社あり、これは未達成企業の57.3%にあたります。半数以上の未達成企業が、まだ最初のひとりにも踏み出せていないということです。
数字が語っているのは、多くの会社にとっての壁が「大量採用」ではなく「最初のひとり」だという事実です。
「数合わせ」では、続かない
期限が迫ると、起きやすいことがあります。準備が整わないまま、とにかく1名を採用してしまうことです。
踏み出せない会社が抱える不安は、たいてい同じところにあります。
- どの部署に配属すればいいか分からない
- 任せられる仕事が思い浮かばない
- 既存社員との関係がうまくいくか不安
- そもそも、定着してくれるのか
これらに答えを出さないまま採用を急ぐと、多くの場合うまくいきません。受け入れる側の準備が整っていないからです。本人にとっても、会社にとっても、不幸な結果になりやすい。早期に離職すれば、また振り出しに戻ります。納付金で対応し続けるという選択もありますが、それは課題を先送りしているにすぎません。
「最初のひとり」が、いちばん難しい
裏を返せば、最初のひとりを採用し、定着まで見届けられた会社は強くなります。
一度経験すれば、社内に「どう任せ、どう支えるか」の手応えが残ります。配属の勘所も、声のかけ方も、つまずいたときの相談先も見えてきます。次の採用への心理的なハードルは、大きく下がります。最初のひとりは、もっとも難しく、もっとも価値のある一歩です。
だからこそ、急いで「雇う」前に、整えておきたいものがあります。
「いま無理に雇う」より、「続けられるしくみをつくる」。
入口を設計する、という考え方
私たちが大切にしているのは、制度に対応することそのものではなく、続けられる雇用を設計することです。具体的には、3つの入口を整えます。
一つめは、業務の切り出し、いわゆる職域設計です。「任せられる仕事がない」と感じる会社は多いのですが、それは多くの場合、既存の業務をひとかたまりで見ているからです。たとえば営業担当が片手間でやっている資料整理やデータ入力、在庫の確認といった作業を切り出して束ねれば、一つの役割になります。仕事がないのではなく、まだ分解できていないだけ、というケースは少なくありません。
二つめは、受け入れ体制です。誰が日々関わり、どこに相談できるのか。支える側の役割を先に決めておきます。合理的配慮の提供は事業主の義務でもあり、本人の特性に合わせて働き方を整えることは、特別なことではなく前提になりつつあります。
三つめは、社内理解です。現場が納得しないまま受け入れても、関係はうまくいきません。なぜ取り組むのか、どう関わってほしいのかを、採用の前に社内で確かめ合っておきます。
障がい者雇用そのものは、会社が自ら営むものです。私たちsiroの仕事は、その設計と定着に伴走することにあります。会社の代わりに雇うのではなく、会社が無理なく続けられる形を、一緒に整えていきます。
7月は、締切ではなく起点
法定雇用率の引き上げは、避けられない流れです。これを「対応すべき義務」とだけ捉えると、数合わせの採用に向かいやすくなります。
そうではなく、自社にとって続けられる雇用のかたちを設計する起点にできれば、障がい者雇用は組織の力に変わります。最初のひとりと本気で向き合った経験は、その後の採用すべての土台になります。
siroのグループには、精神・発達障害のある若年層の就労支援を専門とする就労移行支援事業所(株式会社ao)があります。私たちが「働く人の内側」を理解したうえで設計と定着の支援を行えるのは、この現場の知見が背景にあるからです。企業の内側と働く人の内側、その両方から、雇用計画の設計から採用、定着まで伴走します。
ACTION POINTS
今日からできる、3つのこと
- 自社の常時雇用の従業員数を数え、7月以降の雇用義務の有無を確認する
- 既存業務を一度分解し、切り出して任せられる作業を一つ書き出す
- 受け入れ時に「誰が日々の相談先になるか」を先に決めておく
出典・参考
※本記事は、siroの障がい者雇用支援の知見と、公的統計をもとにした一般的な整理です(統計は記載時点の値)。御社に合った進め方は状況によって変わるため、具体的なご相談はお問い合わせから承ります。
siro編集部
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