行動指針の「体現」を仕組みにする。採用の先にある「定着」をつくる、ブランディングワークショップ3年間の記録

siroの仕事は「採用の入口を設計する」ことです。企業の魅力を構造化し、伝わる採用コミュニケーションをつくる——これが、私たちが掲げる採用ファンマーケティングの基本です。
ただ、支援を続ける中で見えてくるものがあります。どれだけ入口の設計を磨いても、入社後に企業文化との接点がなければ、「いい出会い」は長くは続かない——採用した人材の体現と定着までを設計できて初めて、採用ブランディングは完結するということです。
本記事では、あるクライアント企業のインナーブランディング研修に3年間伴走してきた記録を、siroの視点でご紹介します。採用ファンマーケティング支援の延長線上で取り組んだこのプログラムを通じて、行動指針が日常業務で「体現」され、それが「定着」につながる仕組みをどう設計したか。その過程をたどります。
専門商社
(新人4回+中堅5回)
採用の上流にある、もうひとつの設計
採用で「この会社いいな」と思ってもらえた——その先で、日々の業務を通じて企業の価値観を体現できる環境があるかどうか。ここが、定着と離職の分水嶺になります。
どれだけ魅力的な採用広報を仕掛けても、入社後に社員が理念を体現できなければ、入社前の期待と現実にギャップが生まれる。そのギャップが離職につながる。一方で、行動指針が日常業務の中で自然に体現されている組織では、社員が自社の価値観を自分の言葉で語れるため、定着も長期化していきます。
あるクライアント企業との伴走の中で、この「体現と定着の設計」に正面から取り組む機会をいただきました。採用ブランディング支援の延長線上で「インナーブランディング研修」を企画・実施した、3年間の記録を振り返ります。
きっかけ——採用の質は上がった。次は、体現と定着だった
クライアントは再生可能エネルギー領域の専門商社。従業員30名規模で、経営者の強い理念を軸に成長を続けている企業です。
siroとの取り組みは採用広報の立て直しから始まりました。理念に共感する人材が応募してくれるよう、企業の強みを構造化し、採用メディアの設計・コンテンツ制作に伴走しました。結果、応募者の「質」は明らかに変わっていきました。
ただ、採用がうまく回り始めたことで、次の課題が浮かび上がってきました。
入社した人材が、日々の業務の中で企業理念や行動指針をどこまで「自分ごと」として体現できているか。そしてその体現が、定着につながっているか。掲げられた7つの行動指針が、日常の仕事と切り離された「特別なもの」になってしまえば、せっかくの採用の質も持続しません。
経営者の方とこの話をする中で、「採用の先にある体現と定着に、一緒に取り組めないか」というご依頼をいただきました。
企業文化は「浸透させる」ものではない
研修の設計にあたって、まず大切にしたのは「理念を上から教える」構造にしないこと。そしてもうひとつ、日頃の業務と切り離さないことでした。
理念浸透の施策が形骸化する理由は明確です。「こういう価値観を持ちなさい」という一方通行のメッセージは、人の行動を変えません。そして行動が変わらなければ、体現も定着も起きません。
特別な場で特別なことをやるのではなく、いま目の前にある日常業務の中で行動指針を体現できると実感してもらう——それがこのワークショップの設計思想です。
だから、ワークショップ形式にしました。参加者自身が行動指針と向き合い、自分の業務との接点を考え、チームで実践し、振り返る。講師が「正解」を教えるのではなく、参加者の中から気づきが生まれる構造を目指しました。
まず中堅社員から始めた理由
プログラムは、最初から全社員向けに設計したわけではありません。まずは入社3年以上の中堅社員を対象に、全5回の構成でスタートしました。
理由はシンプルです。組織文化をつくるのは、日々現場で判断を重ねている中堅層だからです。彼らが行動指針と自分の業務の関係を深く理解し、体現できる状態をつくることが、組織全体の文化醸成の起点になります。そして中堅層の体現は、若手の定着にも強く影響する——「この先輩と一緒に働きたい」と思える人がいる組織から、人は離れにくくなるからです。
中堅向けでは、各行動指針について「何を伝えたいのか」「自組織にどんなギャップがあるか」「具体的に何に取り組めるか」を一つずつ掘り下げました。単なる理解にとどまらず、組織文化の「つくり手」としての視点を持ってもらうことを意図しています。
「やってよかった」——中堅社員の反響が、展開を後押しした
中堅向けプログラムを終えた参加者の方から、予想以上の反響をいただきました。
会社の理念や価値観への理解が深まった。日頃の仕事に良い影響を与えていると感じる。やってよかった。
この反響が、新人・入社2年未満の社員への展開につながっていきました。中堅層が体現できる状態になることで、新人の定着にも好循環が生まれていきます。
新人向けは全4回の構成で、企業理念・行動指針との「最初の出会い」を丁寧に設計しています。「自分が所属する組織の評価と、自分自身の評価は連動する」という概念を体感的に理解するところからスタートし、行動指針の「逆」を想像するワークで「なぜこの指針が必要なのか」を自分で発見してもらう流れにしました。
「逆」から考えることで見えるもの
ワークショップの中でもっとも反応が大きかったのが、行動指針の「逆」を想像するワークです。
たとえば「挑戦する心を持つ」の逆。「感謝の気持ちを伝える」の逆。そういう組織で自分は働きたいか、その環境で顧客やパートナーとの関係はどうなるか——参加者に想像してもらいます。
正面から「この行動指針を大切にしましょう」と言われるよりも、逆を想像したときに「それは嫌だ」「そんな組織にはしたくない」という感覚が自然に湧いてきます。そこから「だからこの指針が大事なんだ」という理解が、教えられたものではなく自分の内側から生まれる。そして自分の実感で腹落ちした価値観だからこそ、日常業務の中で体現され、結果として定着につながっていきます。
継続が生む変化——体現が深まり、定着が育つ
どちらのトラックも、1回で完結しない設計にしています。
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約1ヶ月の実践
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チーム発表・振り返り
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KPT で改善抽出
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次のアクションへ
この「計画→実践→振り返り→改善」のサイクルを回す中で、回を追うごとに目に見える変化が起きていきました。
取り組みへの姿勢が変わる。チーム発表の質が上がる。最初は抽象的だったアクション設定が、回を重ねるにつれて具体的で業務に直結したものになっていきます。そして、体現が深まるにつれ、社員の言葉から「この会社で働き続けたい」という定着の意思が自然と出てくるようになりました。
プログラムは2023年にスタートし、2026年現在も毎年内容をアップデートしながら継続しています。単年の研修では起きない変化が、3年のスパンでは起きる——行動指針が「会社が掲げたもの」から「自分たちの文化」になっていく過程、そしてそれが定着の土台になっていく過程を、研修の場で見てきました。
行動指針が浸透しない理由と、定着につながる「体現」の仕組みのつくり方
本ケーススタディの背景にある設計原則を理論的に整理した記事もご用意しています。体現と定着をセットで設計するための3つの原則を解説しています。
採用ブランディングの「その先」へ——体現と定着を、循環させる
siroがこのプログラムを企画・実施している理由は、企業文化の醸成が採用ブランディングの「成果を持続させる」ために不可欠だと考えているからです。言い換えれば、体現と定着まで設計できない採用支援は、入口だけの仕事で終わってしまいます。
入口でどれだけ魅力的なメッセージを発信しても、入社後に社員がその理念を体現できず、早期離職が続けば、採用コストはすべて流れていってしまう。逆に、社員一人ひとりが企業の価値観を日頃の業務の中で体現している組織は、定着率が上がり、社員が自社の魅力を自分の言葉で語れるようになる。そうした組織には、特別な採用施策を打たなくても「この会社で働きたい」という人が自然に集まってきます。
採用コミュニケーションは、定着投資の上流にある。
そして研修は、体現と定着を組織の内側で循環させる仕組みだ。
採用の入口と、組織文化の内側。体現と、定着。この両面を設計できて初めて、「いい出会い」は持続するものになります。
体現と定着、一緒に設計しませんか?
siroは採用ファンマーケティングを軸に、採用の「入口」から組織文化の「内側」、そして定着まで伴走しています。
「理念を掲げたが浸透しない」「採用した人材が定着しない」といったご相談も歓迎です。
※本記事は、siroがクライアント企業で3年にわたって伴走しているインナーブランディング研修の実施記録をもとに構成しています。クライアント企業名は記事の性質上匿名としていますが、内容は実際のプログラム設計と運用に基づくものです。
siro編集部
siro編集部は株式会社siroのメンバーによって構成されるコンテンツ制作チームです。企業のHR領域に関するお役立ちブログやセミナー情報またケーススタディ、その他siroのカルチャーなどをお届けします。


